キーンコーンカーンコーンという鐘の音から始まる、
高齢者にとっては超有名な曲です。
曲が流れると自然に口をついて、
一緒に口ずさむ高齢者の方も多いです。
かわいい女の子の声で、リズム良く、のびやかに爽やかに歌っています。
『とんがり帽子』
作詞: 菊田一夫
作曲: 古関裕而
唄: 川田正子
『とんがり帽子』は明るい曲だが、実は...
この曲は昭和20年代に大流行しました。私たち若者が聴くと、
とても明るい、楽しい感じの童謡でしょ?
としか感じないこの曲ですが、
高齢者の方々のなかには、この曲を聴くと
とても複雑な思いを抱く人がいます。
もしそんな高齢者と接する機会があれば
この曲の明るい曲調の裏にある、
シリアスな背景を知っておくといいかもしれません。
ラジオドラマ『鐘の鳴る丘』の主題歌が『とんがり帽子』
昭和22年7月5日に、NHKラジオドラマ『鐘の鳴る丘』が放送開始されました。
テレビはまだなく、ラジオを聞くのが
家での最大の娯楽だった時代です。
夕方5時15分からの15分間、大人も子供も
ラジオにかじりついて欠かさず聞いていたようです。
そのドラマの主題歌が『とんがり帽子』でした。
「六甲おろし」を作ったことで有名な古関裕而が作曲しました。
大人気なラジオドラマの冒頭に、
始まるよ~!と言わんばかりに、
キンコーンカンコーンという、鐘の音から始まる
この曲が、流れていたんですね。
高齢者にとっては懐かしい情景なんでしょうね。
ドラマが作られた背景がほんとうに重い。
このドラマのそもそもは、当時GHQの部局が、その頃、街にあふれていた戦争孤児を救済するために、
カトリック的な施策の一つとして
NHKに作らせたという経緯があります。
昭和20年8月15日に戦争が終わると、
空襲で家も両親も失った、戦争孤児が街にあふれたそうです。
家もなく、食べさせてくれる人もいない子供たちに対して
当時の世間はまだ混沌としていて余裕もなく、救済制度もなく、
とても冷たく、彼らを「浮浪児」と呼んだそうです。
つらい時代ですね。
浮浪児はなんと十数万人とも言われるほどいたそうです。
一般の人たちの中でも餓死者が続出していたという時代ですから
親戚に引き取られたとしても、食べ物は十分ではなかったし、
施設に収容されたとしても、虐待されたり労作業をさせられたりで
逃げ出す子供たちもいたそうです。
10歳前後の浮浪児が、地下道やガード下などで寝泊まりをしながら
スリやかっぱらいなど、ありとあらゆる方法を使って
生きるために飢えをしのいでいたそうです。
今の時代では考えられない、すさまじく悲惨な話ですが
高齢者にとっては、それがより身近に起こった出来事として
深く残っているのでしょうね。
当時どの立場にいた人も、みんなが辛かった時代だったのではないでしょうか。
希望に満ちたドラマのストーリー
このドラマの作者は菊田一夫です。ラジオドラマ「君の名は」(昭和27年)
の作者と同じです。
ストーリーはこんな感じです。
戦争が終わり、復員してきた主人公の青年(加賀美修平)が、
東京でたくさんの戦争孤児たちと出会い、衝撃を受ける。
修平は、彼らのために、自分のふるさとである信州に
彼らが安住できる場所を作ってあげようと努める。
次第に浮浪児たちの、かたくなな心をときほぐし
ついには浮浪児たちと力を合わせて
「少年の家」を作りあげ、共同生活を始める。。。
このストーリーが大人子ども問わず、多くの共感と感動を呼び
国民的大ヒット番組となったそうです。
主題歌の「鐘の鳴る丘」とは、その共同生活の施設が丘の上にあり、
とがった屋根の時計台に鐘を備えている、という設定からきています。
この曲をどう使うか。
このようにラジオドラマ「鐘の鳴る丘」はとても前向きで人間の善意と、人間が苦境に打ち勝って強く生きる姿を描いています。
その主題歌「とんがり帽子」もとても明るく、
不思議と前向きな感情を呼び起させてくれるような歌です。
前述のような重い背景を持ちつつも、
とても明るいこの曲を聞いた高齢者が
感じることは、やはり人それぞれであるような気がします。
熱中して希望のドラマを家族で聴いていた頃を
懐かしく思う人もいれば、
その当時に胸を痛めていたことを
まざまざと悲痛に思い出す人もいるかもしれません。
立ち入り過ぎず、想像力と知性をもって、
一人一人の高齢者に寄り添っていきたいものです。
そんなことを踏まえた上で、時には一緒にこの歌を
元気に口ずさんでみるのもいいのではないでしょうか。